PoC案件|AIを使わない画像解析技術「膜厚計測結果処理システム」とは
塗装膜厚とは塗装(塗膜)の厚さのことで、産業機器のメンテナンスにおいて、適切な塗装膜厚を維持することは機器の長寿命化と性能維持に不可欠です。
しかし、現場での塗装膜厚の計測は手作業による方法が主流であり、
- 計測作業が煩雑で時間がかかる
- 計測者の技量によってばらつきが生じやすい
- 大量の計測データを管理・分析するのが難しい
などの課題があります。
こうした課題を解決するために、シルク・ラボラトリのAIを使わない画像解析技術を活用した「塗装膜厚計測結果処理システム」の概念実証(PoC)事例をご紹介します。
PoC案件【膜厚計測結果処理システムの例】
シルク・ラボラトリの膜厚計測結果処理システムの概念実証(PoC)事例をご紹介します。
企業が革新的なソリューションを開発する際には、それが実際のビジネス課題に対して有効であるかを確認する必要があるでしょう。そこで行われるのが概念実証(PoC)です。PoCとは「Proof of Concept」の略で、日本語では「概念実証」と訳されます。
概念実証(PoC)がうまくいかないとサービス化できないため、とても大切なステップです。
シルク・ラボラトリでは、AIを使わない画像解析も可能です。膜厚計測結果処理システムの概念実証(PoC)では、ハイパースペクトルカメラを使用することで塗装の厚さ計測が可能となっており、塗装面の画像から膜厚を計測するシステムを実現しました。
ハイパースペクトルカメラは、光を波長ごとに分光して撮影します。例えば、膜厚が薄い箇所は黄色、厚い箇所は赤色というように出力できるため、膜厚の欠損箇所などを検出できるのです。ハイパースペクトルカメラで撮影したデータは、画像解析やAIを使用して解析します。
撮影したデータはサーバーにアップロードでき、ブラウザ上で管理も可能です。保存されたデータは、後の分析や報告書作成に活用することができます。
産業機器のメンテナンスと適切な塗装膜厚を維持する重要性
産業機器のメンテナンスにおいて、適切な塗装膜厚を維持することは非常に重要です。塗装は機器の保護や防食に大きな役割を果たしており、適切な膜厚を保つことで以下のようなメリットがあります。
- 腐食や劣化から機器を守り、寿命を延ばす
- 機器の美観を保ち、商品価値を維持する
- 機器の性能や効率を最適に保つ
塗装膜厚が薄すぎると防食効果が低下したり早期劣化につながったり、さびが発生する可能性があります。厚すぎても塗料使用量やコストが増大しますし、乾燥時間が長くなる、密着性が低下するなどもデメリットが発生するでしょう。
そのため、定期的な塗装膜厚の計測とメンテナンスを行い、最適な状態に保つことが求められます。計測には専門の機器や熟練した技術が必要ですが、それによって産業機器を長く安定的に使用することができるのです。
塗装膜厚の計測方法と課題
産業機器の塗装膜厚を測定するには、いくつかの方法があります。これらの方法による塗装膜厚の測定は、作業者による手作業で行われるのが一般的です。そのため測定ミスのリスクがあり、測定箇所数が多いと膨大な工数がかかるという課題があります。また、測定結果の記録や整理にも手間がかかるでしょう。
本項目では、塗装膜厚の計測方法とその課題について解説します。
一般的な塗装膜厚の計測方法
塗装膜厚の計測には、以下のような方法が一般的に用いられています。
- 電磁式膜厚計
- 磁性体の素地(鉄や鋼など)に限定されますが、最も広く使用されています。
- 下地の影響を受けにくく、高精度な計測が可能です。
- 渦電流式膜厚計
- 非磁性体の素地(アルミやステンレスなど)にも使用可能で、下地の影響を受けにくいのが特徴です。
- 素地の導電率による影響を受けるため、素材に応じたゼロ点調整が必要となります。
- 超音波式膜厚計
- 非破壊で、磁性・非磁性を問わずほとんどの素材の塗膜厚を測定できます。
- 比較的高価で、熟練を要するのが難点ですが、下地の影響を受けにくいのがメリットです。
そのほか、電磁式膜厚計と渦電流式膜厚計、双方の計測機能を備えた「デュアル膜厚計渦流式膜厚計」や、光の干渉効果を活用して計測する「分光干渉式膜厚計」など、計測方法はさまざまです。塗装対象の素材や求められる精度に応じて、適切な計測方法を選択することが重要です。
手作業による計測の課題
塗装膜厚の計測を手作業で行う場合、以下のような課題があります。
- 作業者の熟練度合いにより計測結果のばらつきが生じやすい
- 計測ポイントの特定や記録に手間がかかる
- 膜厚の数値化や可視化に手間と時間を要する
- 計測データの集計や分析に多大な工数がかかる
このように、人の手による計測作業では作業品質の安定化やデータ処理の効率化が課題となっています。計測データを有効活用し、適切な塗装管理を行うには、これらの課題解決が不可欠でしょう。
AIを使わない画像認識のメリット
画像処理の手法として、機械学習やディープラーニングを用いたAIによる画像認識が広く普及しています。しかし、シルク・ラボラトリで提供しているAIを使わない従来型の画像処理にも、さまざまなメリットがあります。
- 認識対象の変更や追加が容易
- 説明可能性が高く、判定結果の解釈が容易
それぞれのメリットについて詳しく見ていきましょう。
画像解析にAIを使うメリット・デメリットについては、以下の記事でさらに詳しく解説しています。ぜひご覧ください。
『画像解析の基礎知識。AIを使うメリット・デメリットを紹介』
認識対象の変更や追加が容易
AIを使わない画像解析技術の大きなメリットとして、認識対象の変更や追加が容易であることが挙げられます。
AIを使う場合、認識対象を変更・追加する際には変更・追加する対象の大量の教師データを用意する必要があります。また、モデルの再学習に時間がかかる、学習が不十分だと認識精度が下がるリスクがあるという点にも注意が必要でしょう。
しかし、AIを使わない画像解析技術であれば、これらの課題を解消でき、現場のニーズに合わせて柔軟にシステムを改善していくことが可能です。
説明可能性が高く、判定結果の解釈が容易
AIによる画像認識では、ニューラルネットワークの複雑な計算によって判定が下されるため、なぜそのような判定になったのか、その理由を説明することが難しい場合があります。
一方、AIを使わない手法では、以下のような利点により判定結果の解釈が容易になります。
メリット | 説明 |
アルゴリズムがシンプル | 画像の特徴量を直接的に計算するため、判定の理由が明確 |
ルールベースの判定 | 人間が設定したルールに基づいて判定されるため、結果の解釈が容易 |
判定プロセスの可視化 | 判定に至るプロセスを可視化できるため、判定根拠の説明が可能 |
このように、AIを使わない画像解析技術を用いることで、塗装膜厚の計測結果に対する説明責任を果たしやすくなります。判定結果の妥当性を関係者に説明できることは、システムの信頼性向上にもつながるでしょう。
今回の概念実証からサービス化するにあたる課題点
概念実証(PoC)で、AIを使わない画像認識技術を用いた塗装膜厚の計測結果処理システムの有用性を確認できました。本格的なサービス化に向けて、欠陥検出精度の向上や閲覧機能を充実させる、過酷環境下で安定して稼働できるよう耐環境性を整える、UI改善や自動化・省力化で使いやすさを追求するなど、課題点を洗い出します。
シルク・ラボラトリでは、このような課題を一つひとつクリアしていくことで、現場で真に役立つ塗装膜厚計測ソリューションの実現を目指します。
概念実証(PoC)で有望だと判断されたソリューションは、本格的な開発フェーズへと移行します。
PoCのご相談はシルク・ラボラトリにお任せください
シルク・ラボラトリでは、AIを使わない画像解析・画像処理技術を活用したシステム開発を行っています。高い技術力と柔軟な対応で、お客さまのご要望に合わせて実証実験の計画から結果の評価まで、丁寧にサポートいたします。
概念実証(PoC)は、新しい価値を生み出すための欠かせない取り組みです。ソリューション開発を検討されている方は、ぜひシルク・ラボラトリにご相談ください。お客さまの課題解決に向けて、最適なソリューションをご提案いたします。
まとめ
産業機器のメンテナンスにおいて、適切な塗装膜厚の維持は重要な課題です。AIを使わない画像解析技術を用いた膜厚計測結果処理システムは、認識対象の変更や追加が容易であり、説明可能性が高く判定結果の解釈が容易であるというメリットがあります。一方で、本格的なサービス化に向けては、撮影条件の標準化、大量データの効率的な処理、精度検証とチューニングなどの課題があります。
シルク・ラボラトリでは、お客さまのニーズに合わせた概念実証(PoC)の実施を通じて、これらの課題解決をサポートいたします。産業機器のメンテナンス効率化に向けて、ぜひご相談ください。