画像解析の基礎知識。AIを使うメリット・デメリットを紹介
近年、AI(人工知能)技術の発展は目覚ましく、さまざまな分野で活用が進んでいます。中でも、画像を分析して特徴を抽出したり、物体を認識したりする画像解析の分野でのAI活用は大きな注目を集めています。
AIを用いた画像解析は、人の目では見落としがちな特徴も高い精度で検出できるため、品質管理の効率化や医療における見落としの防止など、さまざまな分野でのDXを推進する役割を担っています。本記事では、AIを活用した画像解析の基礎知識とそのメリット・デメリットについて解説します。
目次
- 1. 画像解析とは
- 1-1. 人工知能(AI)の一分野
- 1-2. 画像認識との違い
- 2. AIを用いた画像解析の手法
- 2-1. 画像分類
- 2-2. 画像検出
- 2-3. 画像セグメンテーション
- 3. 画像解析にAIを活用するメリット
- 3-1. ヒューマンエラーを低減
- 3-2. 大量のデータ処理が可能
- 3-3. 高い認識精度
- 3-4. コスト削減・時間のリソース軽減につながる
- 4. 画像解析にAIを活用するデメリット
- 4-1. 誤検出が発生することも
- 4-2. 理由の説明が困難(ブラックボックス)
- 4-3. 学習データの確保が課題
- 5. 画像解析にAIを活用しないメリット
- 5-1. アルゴリズムの処理内容が明確
- 5-2. 柔軟なチューニング
- 5-3. 少ない学習データでも解析可能
- 6. 画像解析にAIを活用しないデメリット
- 6-1. 人的リソースが必要
- 6-2. 処理速度の低下
- 6-3. ヒューマンエラーの発生
- 7. シルク・ラボラトリの画像解析の活用事例
- 7-1. 風洞模型変形測定
- 8. 画像処理・画像解析はシルク・ラボラトリにお任せください
- 9. まとめ
画像解析とは
まずは、画像解析の基本情報をご紹介します。
似た言葉である「画像認識」との違いも見ていきましょう。
人工知能(AI)の一分野
画像解析は、人工知能(AI)の一分野です。AIによって画像から特徴を抽出し、その特徴をもとに分類や検出などを行います。
従来の手法は、専門家の知識に基づいて特徴量を設計し、ルールベースで処理を行っていました。しかし、AIを用いた画像解析では、大量のデータから特徴量を自動的に学習し、より柔軟で高度な解析が可能になります。
ただし、従来の手法にも、アルゴリズムが明確で説明可能性が高い、学習データが不要で導入コストが低いといったメリットがあります。
画像認識との違い
画像解析と画像認識は混同されやすい言葉ですが、以下のような違いがあります。
項目 | 画像解析 | 画像認識 |
概要 | 画像から特徴を抽出し、分析を行う技術 | 画像を識別し、分類する技術 |
用途例 | 製品の外観検査、医療画像診断など | 顔認証、自動運転の障害物検知など |
・物体認識
画像認識は画像解析の一種であり、画像内の特定の対象を識別する技術です。主な画像認識の種類には以下のようなものがあります。
・顔認識
画像内の顔を検出し、誰の顔であるかを識別する技術です。セキュリティシステムや写真管理アプリケーションなどで広く使用されています。
・文字認識
画像内の文字を検出し、その文字を識別する技術です。OCR(光学式文字認識)とも呼ばれ、紙の文書をデジタル化する際などに用いられます。
これらの画像認識技術は、画像解析の一部であり、AIを用いることで高い精度で自動化することができます。
AIを用いた画像解析の手法
AIを用いた画像解析の手法には、主に以下の3つがあります。
- 画像分類
- 画像検出
- 画像セグメンテーション
それぞれの特徴を見ていきましょう。
画像分類
画像分類は、与えられた画像があらかじめ定義されたクラス(カテゴリ)のどれに属するかを判定する手法です。代表的なアルゴリズムとしては、畳み込みニューラルネットワーク(CNN)が広く用いられています。
画像検出
画像検出は、画像内の特定の物体の位置を特定し、その物体が何であるかを識別する手法です。画像内の物体の位置は、通常、バウンディングボックス(矩形の枠)で表現されます。物体検出では、「R-CNN」「YOLO」「SSD」「DCN」などのアルゴリズムが使用されます。
画像セグメンテーション
画像セグメンテーションは、画像内のピクセル一つ一つに対して、そのピクセルが属するクラス(カテゴリ)を割り当てる手法です。これにより、画像内の物体の領域を正確に分割することができます。代表的なアルゴリズムとしては、Fully Convolutional Network(FCN)やU-Netなどが挙げられます。
これらの手法は、それぞれ異なる目的や用途に応じて使い分けられます。画像解析のタスクに応じて、適切な手法を選択しましょう。また、これらの手法を組み合わせることで、より複雑な画像解析タスクに対応することも可能です。
画像解析にAIを活用するメリット
AIを用いた画像解析には、以下のようなメリットがあります。
- ヒューマンエラーを低減
- 大量のデータ処理が可能
- 高い認識精度
- コスト削減・時間のリソース軽減につながる
それぞれのメリットについて詳しく見ていきましょう。
ヒューマンエラーを低減
AIを用いた画像解析は、人力での分類と比べてヒューマンエラーを大幅に低減できます。人間は疲労や集中力の低下により見落としや誤判定が発生しやすいですが、AIはアルゴリズムが一貫した基準で画像を分類するため、主観や疲労の影響を受けません。
製品の品質検査や医療分野でのがん診断など、AIを活用することで人間が見落としがちな特徴も高い精度で検出できます。
大量のデータ処理が可能
AIを活用した画像解析の大きなメリットは、大量の画像データを高速かつ自動で処理できる点です。特に、画像分類のような定型的な作業は、AIによる自動化の恩恵を大きく受けられます。人の手で行う場合は非常に時間と労力を要する上、作業者の主観によるバラつきも生じやすくなるでしょう。
一方、AIを用いれば、あらかじめ用意した大量の学習データをもとに、高い精度で画像を自動分類できます。これにより、作業の生産性を大幅に向上させ、人的リソースを他の付加価値の高い業務に振り向けることが可能となります。
高い認識精度
認識精度が高いという点もメリットとして挙げられます。AIを活用することで、従来の手法では限界があった複雑なパターンの認識や、膨大な量のデータからの特徴抽出が可能になりました。医療分野では見落としの減少、製造業では欠陥の検出など、人の目では捉えきれない細かな特徴を認識できることがAIならではの強みです。この高い認識精度により、さまざまな分野でイノベーションが促進されています。
コスト削減・時間のリソース軽減につながる
AIを用いた画像解析は高い認識精度を実現し、コスト削減と時間のリソース軽減につながります。従来の手動による画像解析と比較して、AIは膨大な画像データを高速かつ自動で処理できるため、作業の生産性が大幅に向上します。
また、AIによる画像解析は人的エラーを最小限に抑えられるため、高い精度での画像認識が可能です。この高精度な画像解析により、不良品の見落としを防止し、品質管理の工数を削減できます。さらに、熟練の専門家でなくともAIを活用することで、画像解析の作業を効率化でき、人的リソースを他の付加価値の高い業務に振り向けることができます。
画像解析にAIを活用するデメリット
AIを画像解析に活用する際のデメリットとしては、以下の点が挙げられます。
- 誤検出が発生することも
- 理由の説明が困難(ブラックボックス)
- 学習データの確保が課題
それぞれのデメリットについても詳しく見ていきましょう。
誤検出が発生することも
AIを用いた画像解析は高い精度を実現しますが、誤検出を完全にゼロにすることは困難です。学習データに含まれていないパターンやノイズの多い画像では、AIが誤検出してしまう可能性があります。
また、AIの判断基準が人間の理解と異なる場合もあるため、人間には問題ないように見える画像でも誤検出が発生することがあります。ただし、学習データの改善や人間による確認を行うことで、誤検出の発生率を最小限に抑えることは可能です。AIと人間が協働し、それぞれの強みを活かすことが、高精度な画像解析の実現に不可欠です。
理由の説明が困難(ブラックボックス)
AIを用いた画像解析は、高い学習能力を持つ一方で、判断の理由を説明することが難しいという課題があります。AIの内部処理が不透明であることから「ブラックボックス」と呼ばれ、特に医療や自動運転など、人命に関わる分野での活用には注意が必要です。
現在、この課題に対応するために説明可能なAI(XAI)の研究が進められており、AIの判断プロセスを人間が理解できる形で説明することを目指しています。
学習データの確保が課題
AIを用いた画像解析では、AIモデルの学習に大量のデータが必要になります。特に、以下のようなデータの確保が課題となっています。
課題 | 内容 |
データ量の確保 | 十分な量の学習データを用意する必要がある |
データの質の確保 | ノイズの少ない質の高いデータが求められる |
データのバランス | 偏りのないデータセットの構築が重要 |
データのアノテーション | 人の手によるラベル付けなどの手間がかかる |
以上のような課題から、AIモデルの学習に適したデータを準備するには多大な時間とコストを要します。データ不足や品質の低いデータでは、高精度なAIモデルの構築は難しくなってしまいます。
そのため、AIを活用した画像解析を進める上では、質・量ともに十分な学習データをいかに効率的に確保するかが重要なポイントといえるでしょう。
このように、AIを画像解析に活用する上では、誤検出のリスクや判断根拠の不透明さ、学習データ確保の難しさといった課題があることを理解しておく必要があります。AI活用のメリットを享受しつつ、これらのデメリットにも留意しながら、適切に運用していくことが肝要です。
画像解析にAIを活用しないメリット
AIを活用しない画像解析のメリットとしては、以下のような点が挙げられます。
- アルゴリズムの処理内容が明確
- 柔軟なチューニング
- 少ない学習データでも解析可能
それぞれのメリットについて詳しく見ていきましょう。
アルゴリズムの処理内容が明確
AIを用いない従来の画像解析では、アルゴリズムの中身が明らかであるため、処理の内容を説明しやすいというメリットがあります。
従来の画像解析手法では、画像の特徴量を人間が定義してプログラミングを行います。そのため、どのような処理がなぜ行われているのかが明確です。この透明性の高さは、特に品質管理や安全性が求められる用途において重要視されます。
また、アルゴリズムを詳細に設計できるため、ニーズに合わせた柔軟なカスタマイズが可能となります。AIのブラックボックス性が課題となるケースにおいては、従来手法が有効なソリューションになり得るでしょう。
柔軟なチューニング
AIを用いない画像解析のメリットの一つとして、柔軟なチューニングの可能性が挙げられます。AIを活用しない従来の画像解析手法では、上述したようにアルゴリズムの処理内容が明確であるため、目的に応じて柔軟にパラメータを調整できます。
例えば、以下のようなチューニングが可能です。
・しきい値の調整
画像の二値化におけるしきい値を変更し、対象物の抽出精度を向上
・フィルタの選択
エッジ検出や平滑化など、目的に応じたフィルタを選択し適用
・特徴量の選択
形状、テクスチャ、色情報など、対象物の特徴を表現する特徴量を選択
AIを用いない画像解析では、対象やシーンに合わせてアルゴリズムを柔軟にチューニングできるため、細かな調整が必要な場合に適しています。一方で、チューニングには専門知識と試行錯誤が必要となるため、人的リソースとコストがかかることにも留意が必要です。
少ない学習データでも解析可能
AIを活用する場合は大量の学習データが必要となりますが、従来手法ではそれほど多くのデータを必要としません。したがって、学習データの確保が難しい場合にも、画像解析を行うことができるでしょう。これは、解析アルゴリズムが明確に定義されており、データ量に左右されにくいためです。
ただし、解析精度を高めるためには、アルゴリズムの最適化やパラメータ調整に専門知識が必要となります。
画像解析にAIを活用しないデメリット
画像解析にAIを活用しない場合、以下のようなデメリットが考えられます。
- 人的リソースが必要
- 処理速度の低下
- ヒューマンエラーの発生
デメリットについても併せて見ていきましょう。
人的リソースが必要
AIを用いない従来の画像解析では、人的リソースが多く必要になります。画像解析のアルゴリズムを設計するには、専門知識を持った技術者の関与が不可欠です。また、画像解析の対象が変わるたびに、アルゴリズムの再設計や調整が必要になります。そのため、継続的に技術者のリソースを投入し、メンテナンスを行っていく必要があるのです。
処理速度の低下
AIによる画像解析を行わず、アルゴリズムを人の手で構築する場合、処理速度の低下が懸念されます。人の手によるアルゴリズムでは、画像の特徴量抽出や認識処理に時間がかかるため、AIを用いた手法と比べて処理速度が大幅に遅くなってしまいます。
特に、大量の画像データを扱う場合、この速度差は無視できない問題です。人の手でアルゴリズムを構築する際の処理速度の低下は、リアルタイム性が求められる用途や、膨大な画像を扱うシーンにおいてはデメリットとなります。
ヒューマンエラーの発生
画像解析をAIに頼らずに人の手で行う場合、ヒューマンエラーが発生するリスクがあります。人は疲れや体調不良、気分の浮き沈みなどの影響を受けやすく、集中力が低下すると単純なミスを犯しやすくなります。特に大量の画像データを扱う際は、見落としや誤認識が起こりやすい傾向にあります。
ヒューマンエラーを防ぐためには、きちんとしたトレーニングや複数人でのダブルチェックが欠かせません。しかし、人員の確保や教育にはコストと時間がかかるというデメリットもあります。
シルク・ラボラトリの画像解析の活用事例
シルク・ラボラトリは、長年にわたって画像処理技術の開発に取り組んでいます。
本項目では、シルク・ラボラトリでの実際の画像解析の活用事例をご紹介します。
風洞模型変形測定
JAXA(宇宙航空研究開発機構)さまの事例では、精密な風洞模型変形測定を実施するためのソフトウェア構築をシルク・ラボラトリが担当いたしました。シルク・ラボラトリのソフトウェア構築では、人手でチューニングして判別アルゴリズムを確定させています。
本来は総計数百点〜数千点の測定点を識別する必要がありますが、ソフトウェアを活用することで測定作業の効率化が実現しました。これにより、ロケットや航空機の設計開発プロセスの最適化につながっています。
以上のように、AIを活用した画像解析は、JAXAのような最先端の研究開発の現場でも重要な役割を担っています。
こちらの事例は以下のページでさらに詳しくご覧いただけます。
画像処理・画像解析はシルク・ラボラトリにお任せください
シルク・ラボラトリでは、最新の技術を取り入れて画像処理技術の開発に取り組んでいます。当社の画像解析は、お客さまのニーズに合わせた解析が可能です。
シルク・ラボラトリの画像解析サービスを活用することで、人の手による画像確認の工数を大幅に削減でき、ヒューマンエラーの低減にもつながります。画像解析の導入をお考えの方は、お気軽にご相談ください。シルク・ラボラトリでは画像解析技術を活用し、お客さまの課題解決に貢献いたします。
まとめ
本記事では、画像認識にAIを活用するケースとしないケースでのメリット・デメリットを紹介しました。
AIによる画像解析は、人の手では困難な大規模かつ高精度な処理を実現できる反面、誤検出やブラックボックス化といった課題もあります。
弊社シルク・ラボラトリでは、長年の経験とノウハウを活かし、お客さまのニーズに合わせた最適な画像解析ソリューションをご提供いたします。ぜひお気軽にご相談ください。