【画像解析ツール開発】データセット構築からモデル評価まで、開発工程を徹底解剖!
近年、AIやディープラーニングの発展に伴い、画像解析技術は目覚ましい進化を遂げています。製造業や医療分野など幅広い業界で画像解析ツールの需要が高まっており、自社でツールを開発する企業も増えてきました。
本記事では、画像解析ツールの開発工程を要件定義からデプロイ・運用まで順を追って解説します。自社開発するべきか、外注に出すべきかの判断材料としてお役立てください。
画像解析のやり方・基礎知識については以下の記事で解説しています。ぜひご覧ください。
『画像解析の基礎知識。AIを使うメリット・デメリットを紹介』
画像解析ツール開発の流れ
画像解析ツールの開発は、以下のような流れで進めていきます。
- 要件定義
- データセットの準備
- モデルの設計と実装
- 学習の実行
- 評価と改善
- デプロイと運用
各フェーズについて詳しく見ていきましょう。
要件定義
要件定義とは、システムやツールを開発する前に、必要な機能や要求をわかりやすくまとめていく作業のことです。
要件定義では、開発する画像解析ツールに必要な機能と性能を明らかにします。具体的には、解析する画像の種類や特徴、必要な画像処理機能(画像の前処理、特徴抽出、領域分割、物体の検出・認識など)、求められる性能(処理速度、精度、ノイズへの耐性、メモリ使用量)、入力と出力の形式、開発・運用環境を洗い出します。これらの要件を漏れなく洗い出し、開発に関わる全ての人々の間で合意を取ることが、その後の開発作業をスムーズに進めるために重要です。
データセットの準備
データセットの準備は、高性能な画像解析ツールを開発する上で非常に重要なプロセスです。簡単にいうと、パズルを完成させるために、ピースを揃えるようなものです。主要ステップは以下の通りです。
- データ収集とクリーニング
自社データや外部データを収集します。使えない画像もあるため、ノイズや欠損、重複を除去してきれいに整理して使えるデータだけを選びます。
- アノテーションの実施
アノテーションは、データへの名札付けという意味です。 集めた画像に、これは何の画像なのか教える作業になります。教師あり学習に必要なラベル付けを人手で実施します。
- データ拡張の検討
集めた画像の数が足りないときは、ちょっとした工夫でデータを増やすことができます。学習データ不足時は、回転、反転、拡大縮小などの画像変換で水増ししましょう。
- train/val/testの分割
最後に、集めたデータをtrain(学習)、validation(検証)、test(精度検証)の3つのグループに分けます。偏りを避けるため層化サンプリングを使用しましょう。
このデータセットの準備は、画像解析ツールの性能を大きく左右するとても大切な作業です。手間を惜しまずに、良いデータを揃えましょう。
モデルの設計と実装
モデルの設計と実装は、画像解析ツールを作るための重要なステップです。まるでロボットを作るように、コンピューターにどうやって画像を理解させるか考えて、設計図を描くようなイメージで設計と実装していきます。
画像解析モデルの設計では、以下の手順を踏みます。
- ニーズに合わせたモデルアーキテクチャの選定
- 入力データの前処理方法の検討
- 損失関数とオプティマイザの設定
- ハイパーパラメータの調整
まずモデルの形や仕組みを決めます。これを「モデルアーキテクチャ」といいます。次に、モデルが学習しやすいように入力データの前処理をして画像を整えます。
そして損失関数でモデルの間違いを測り、オプティマイザでその間違いを少なくするように調整します。オプティマイザは「最適化する」という意味で、損失関数で求めた損失を最小化するためのアルゴリズムです。
最後に「ハイパーパラメーター」という、学習の速さなどの設定を色々試して最適な方法を見つけます。
モデル実装では、Pythonを用いた記述が一般的です。実装時は、コードの可読性と再利用性を重視します。設計と実装を経て、いよいよモデルの学習フェーズに移ります。
画像解析のやり方は以下の記事でも解説しています。ぜひご覧ください。
学習の実行
学習の実行は、人間でいうところの勉強と同じです。画像をたくさん見せて、正解を教えることで、画像解析ツールは賢くなっていきます。学習の実行段階では、用意したデータセットを使ってモデルを学習させます。以下のようなステップで進めていきましょう。
- 学習用データと検証用データへの分割
- モデルの初期化と学習パラメータの設定
- 学習の実行(エポック数、バッチサイズなど)
- 学習経過のモニタリング(損失関数の推移など)
- 学習済みモデルの保存
学習には時間がかかるため、GPUなどの並列計算リソースの活用が欠かせません。クラウドの利用も選択肢の一つです。 学習中は、損失関数の推移をグラフ化するなどしてモニタリングし、過学習や学習不足になっていないかを確認します。最終的に、学習済みモデルをファイルに保存して次の評価フェーズに備えましょう。
評価と改善
評価と改善は、作った画像解析ツールがしっかり動作しているかどうか確かめて、さらに良くしていく作業です。
モデルの精度を測るために予想がどれだけ信用できるかを測る『適合率(Precision)』や正しいモデルの見逃しがないかを測る『再現率(Recall)』、適合率と再現率の両方を考慮する『F値』などの指標を使って、どのくらい正しく予測できているかを確認します。
これらの評価をもとに、モデルの強みと弱みを分析し、必要に応じてデータの追加やモデルの構造の見直し、パラメータの調整を行います。このサイクルを繰り返しながら、モデルの性能を徐々に高めていきます。また、改善の限界を見極め、適切なタイミングで次の工程に進むことも重要です。
デプロイと運用
開発した画像解析ツールは、実際の運用環境にデプロイする必要があります。デプロイとは、システムやツールを開発する工程の中で、ツールの機能をサーバー上に配置・展開し、利用可能な状態にする一連の作業を指します。デプロイの際は、いくつかのポイントに注意しましょう。
まず、推論速度の最適化が必要です。ユーザーがストレスなく使えるように、ツールは素早く結果を出せることが求められます。そのため、モデルを軽量化したり、適切なハードウェアを選ぶことが重要です。
また、セキュリティ対策も欠かせません。機密性の高い画像データを扱う場合、暗号化やアクセス制御などの対策を行い、安全な環境を整えることが必要です。
適切なデプロイと着実な運用を通じて、画像解析ツールの価値を最大限に引き出していきます。
画像解析ツールを自社開発するメリット
画像解析ツールを自社開発することには、以下のようなメリットがあります。
- 自社のニーズに完全にフィットしたツールを開発できる
- ノウハウの内製化による競争力強化
- 外部への依存リスクの回避
それぞれのメリットについて詳しくご紹介します。
自社のニーズに完全にフィットしたツールを開発できる
自社で画像解析ツールを開発する大きなメリットは、自社のニーズに完全にマッチしたツールを作れることです。
自社のニーズに完全にフィットしたツールを開発することで、以下のようなメリットがあります。
- 自社の業務フローやデータの特性を熟知した開発者が、最適な機能や性能を実現できる
- 独自の画像フォーマットやメタデータにも柔軟に対応可能できる
- 社内の他システムとのスムーズな連携も実現できる
このように、自社開発することで、外注や既存の汎用ツールでは実現が難しい、自社に最適化された画像解析ツールを作ることができます。事業の中核となるような画像解析ツールこそ、自社開発にこだわるべきと言えるでしょう。
ノウハウの内製化による競争力強化
画像解析ツールの開発を自社で行うことで、そのノウハウを蓄積し、競争力強化につなげることができます。
現場からのフィードバックを迅速に反映したり、継続的な精度向上と効率化を実現したりすることで、改善サイクルの内製化もできるでしょう。
画像解析ツールの開発を自社で進めることで、他社には真似のできない独自のノウハウを武器にでき、長期的な競争優位性の確立につながります。
外部への依存リスクの回避
画像解析ツールを外注開発する場合、開発会社への依存度が高くなるリスクがあります。例えば、以下のようなケースが考えられます。
- 開発会社の技術力不足や倒産などにより、ツールの品質低下や開発が中断してしまう
- ツールの仕様変更や機能追加の際に、開発会社の対応が遅れる
- 開発会社に蓄積されたノウハウが社内に蓄積されず、競争力強化につながらない
しかし、自社開発することで、これらの外部依存リスクを回避できます。画像解析ツールの自社開発は、外部への依存リスクを回避し、自社の競争力強化につながるメリットがあるのです。
画像解析ツールを自社開発するデメリット
画像解析ツールを自社開発するには、以下のようなデメリットがあります。
- 高度な専門人材の確保と育成が難しい
- 初期の開発コストがかかる
- 最新技術への追従が難しい
自社開発にはいくつかの課題があることも認識しておきましょう。
高度な専門人材の確保と育成が難しい
画像解析ツールの自社開発には、機械学習やコンピュータビジョンの専門知識を持つエンジニアが必要不可欠です。しかし、これらの分野は非常に専門性が高く、スキルを持つ人材は限られています。必要な人材を外部から採用することは容易ではありません。加えて、社内での育成にも時間がかかります。具体的には以下のような課題があります。
- 最先端の技術トレンドに追従するための継続的な学習が必要
- 実践的なプロジェクト経験の蓄積に時間がかかる
- 専門性の高さゆえ、指導できる社内メンターが不在
画像解析ツールの自社開発には、高度な専門人材の確保と育成というハードルがあることを認識しておきましょう。
初期の開発コストがかかる
画像解析ツールを自社開発する際には、初期の開発コストが大きな課題となります。高度な専門性が求められるため、以下のようなコストが発生します。
- 開発に必要なハードウェアの購入・リース費用
- 開発に必要なソフトウェアのライセンス費用
- 高度な専門人材の採用・教育にかかる人件費
- データセットの収集・アノテーションにかかる外注費用
このようなコストは、軽視できない金額となるでしょう。しかし、自社開発によって得られる長期的なメリットを考慮し、戦略的な投資判断が求められます。
最新技術への追従が難しい
画像解析の分野では、日々新たな手法やアルゴリズムが発表されています。自社開発の場合、以下の理由から最新技術への追従が難しくなります。
- 研究論文の調査や理解に時間がかかる
- 新手法の再現実装には試行錯誤が必要
- 既存システムへの組み込みに手間がかかる
- 専門人材の確保・育成が追いつかない
しかし、画像解析の専業企業に外注することで、常に最先端の技術を導入したツールを利用できます。外注先が最新技術動向を追跡し、ツールに組み込む作業を担ってくれるため、自社の負担を大幅に軽減できるのです。
画像解析ツールの自社開発が向いているケース
画像解析ツールの自社開発は、以下のようなケースで特に効果的です。
- ケース①画像解析が事業の中核となる
- ケース②独自性の高い画像データを扱う
- ケース③業界での競争優位性を保ちたい
このように、事業戦略上の重要度が高く、自社ならではの強みを発揮できる領域においては、画像解析ツールの内製化がビジネス成功の鍵を握るでしょう。
それぞれのケースについて詳しく解説します。
ケース①画像解析が事業の中核となる
画像解析が事業の中核となる場合は、画像解析ツールの自社開発が有効です。例えば、以下のような事業が該当します。
- 医療画像診断支援システムの開発
- 工業製品の外観検査自動化
- 衛星画像解析サービスの提供
これらの事業では、画像解析の精度が直接的に事業の成否を左右します。自社開発により、事業に必要不可欠な高精度、高効率、高い秘匿性といった要素を実現できるのです。
高精度については、自社の扱う画像の特性に合わせた学習が可能となります。高効率については、事業プロセスに最適化されたシステム構築が可能です。高い秘匿性については、機密性の高い画像データを社内で厳重に管理できます。
加えて、画像解析ツールの内製化は、事業の根幹に関わる重要なノウハウの蓄積にもつながります。結果として強固な参入障壁を築き、競争優位を確立できるでしょう。
ケース②独自性の高い画像データを扱う
自社で保有する独自性の高い画像データを扱う際には、画像解析ツールの自社開発が適しています。例えば、以下のようなケースが考えられます。
- 自社工場の製品検査で撮影された大量の画像データ
- 自社サービスのユーザーから収集した特殊な画像データ
- 業界特有の専門的な画像データ
他社には真似のできない自社固有の画像データを保有している場合、その価値を最大限引き出すためには自社開発による画像解析ツールの実装が有効な選択肢となるでしょう。自社ニーズに完全にマッチしたツールを内製することで、競争優位性の源泉にもなり得ます。
ケース③業界での競争優位性を保ちたい
自社の強みを最大限に活かした画像解析ツールを内製化することで、他社には真似のできない強みを作り出せます。独自機能の実装、解析精度の向上、柔軟な対応力など、自社開発による競争優位性の確立に向けたアプローチは多岐にわたるでしょう。
また、継続的な改良を重ねることで、自社サービスの付加価値を高め続けることができ、業界内での差別化を図ることが可能です。蓄積したノウハウは、新たな画像解析サービス展開の土台にもなります。
このように、画像解析ツールの自社開発は、他社との差別化と、将来に向けた成長基盤の確立につながり、長期的な競争優位性の源泉となるはずです。高い技術力を武器に、他社の追随を許さないソリューションを生み出しましょう。
画像解析ツールの外注開発が向いているケース
画像解析ツールの外注開発に適しているのは、以下のようなケースです。
- ケース①汎用的な画像解析ニーズへの対応がある
- ケース②短期的な開発期間と予算の制約がある
- ケース③自社リソースの戦略的な配分が求められる
画像解析ツールの開発においては、自社の状況や要件に合わせて、自社開発と外注開発を適切に使い分けることが重要です。それぞれのケースについて詳しく見ていきましょう。
ケース①汎用的な画像解析ニーズへの対応がある
汎用的な画像解析ニーズがある場合は、外注開発が適しています。例えば、以下のようなケースが挙げられます。
- 製品の外観検査
- 文字認識による自動データ入力
- 人物や物体の検出・識別
これらの汎用的なニーズには、すでに多くの実績のあるサービスやツールが存在します。外注することで、短期間で必要な機能を実現できるでしょう。
ただし、画像解析が競争力の源泉となる場合は、自社開発も検討すべきです。戦略的に重要な機能は、自社でノウハウを蓄積していくことが望ましいでしょう。外注と自社開発のバランスを考慮することが大切です。
ケース②短期的な開発期間と予算の制約がある
短期的な開発期間と限られた予算内で画像解析ツールを開発する必要がある場合、自社開発よりも外注開発を選択した方が良い可能性があります。前述したように、自社開発では専門人材の確保・育成に時間がかかったり、開発環境の整備コストがかさんだりするというリスクがあるためです。しかし、画像解析の開発実績豊富な企業への外注であれば、これらのリスクを回避できます。外注のメリットは次の通りです。
- 豊富な開発実績により短期間で開発ができる
- 自社のリソース投入を最小限に抑えられる
- 実績ある企業の知見を活用できる
早期に画像解析ツールを活用したいものの、自社リソースに制約がある場合は、信頼できる企業への外注の検討をおすすめします。
ケース③自社リソースの戦略的な配分が求められる
画像解析ツールの開発には、高度な専門知識を持つエンジニアやデータサイエンティストなどの人的リソースが不可欠です。しかし、これらの人材は社内に限りがあるため、全ての開発を内製化するのは現実的ではありません。
そこで重要となるのが、自社リソースの戦略的な配分です。事業戦略上の優先度や自社の強みを踏まえ、内製化すべき領域と外注に頼るべき領域を見極める必要があります。
自社リソースの配分の判断基準としては、以下のような点が挙げられます。
- 競争優位性への貢献度合い
- 独自ノウハウの蓄積可能性
- 開発難易度と自社の技術力とのギャップ
- 開発スピードと柔軟性へのニーズ
これらを総合的に勘案し、コアとなる部分は内製化し、それ以外は外注活用することで、限られたリソースを最大限に活かした開発体制の構築が可能となるでしょう。
画像処理・画像解析はシルク・ラボラトリにお任せください
画像解析ツールの外注開発は、短期間での開発、高度な専門技術の活用、自社リソースの最小化などのメリットがあります。特に自社リソースに制約がある場合は有効な選択肢です。
外注先選定では、画像解析の豊富な実績、高い技術力、自社ニーズへの理解、セキュリティ対策、長期サポート体制などがポイントとなります。
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まとめ
本記事では、画像解析ツールの開発工程を要件定義からデプロイ・運用まで解説しました。自社開発は、完全オーダーメイドでノウハウの内製化やリスク回避などのメリットがある一方、人材確保の難しさや初期コストの大きさ、最新技術への追従の困難さなどのデメリットもあります。
外注開発は、汎用ニーズへの対応や短期開発、リソース配分の最適化などのメリットがありますが、カスタマイズの制約やノウハウ流出リスク、継続的なコストなどのデメリットもあります。自社の状況を見極め、最適な選択をすることが重要です。画像解析のツール開発にお困りの際は、ぜひシルク・ラボラトリまでご相談ください。